いつかすべては使われない部屋に放り込まれるけれど/ホロウ・シカエルボク
 


視界はぼんやりと霞んだままいつまで経ってもクリアにならなかった、水を浴びせても、指で拭ってみても―軽く叩いてみても。世界はなにか大事なことを誤魔化しながら慌てて暮れていこうと目論んでいるようだった。多少強引に噛み千切った左手の人差し指の爪の端から微かに血が滲んでいて、それは俺を苛立たしい気分にさせた。この街に住む様々な人間の焦燥と、際限なく行き来する車の排気ガスが、黒雲のように寄り合って、そいつらの内臓を食い漁っているみたいな夕暮れだった。古い、色褪せたアスファルトは錆びたような臭いを立ち昇らせ、それが含んでいる湿度は幼いころのあまり喜ばしくない記憶ばかりを呼び起こさせた、そのすべてはいま
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