蝶がヒラヒラ/こたきひろし
たえず耳なりがしている
キーンキーンと機械的なノイズ
何も気づかないうちに断頭台に乗せられているのかも解らない
彼の痩せた首
それは
大きくて鋭い刃物がいつなんどき落ちてくるかもしれない前兆か
だとしても彼の底知れない冷酷な感情は一度も熱が上がらない
周囲は漠然と広がる荒野
などではなく
高層アパートの一室でもなく
名前も持たない市街地の
名前も持たない公園だった
花が名前を待たないままにひっそりと咲いていた
彼はそれを空虚な眼で眺めていた
彼も名前を待たない人間だったからか
そこには蝶が一匹だけ
なぜか孵化する以前の姿のままにあらわれた
孵化しない蝶は蝶とは言えない
蝶とは呼べない
なのにどうしてか
彼の渇いた意識の蒼空からヒラヒラと飛んできたのだ
それはきっと彼自身が孵化する以前のヒトであったからかも
わからなかった
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