数年に及ぶ/こたきひろし
 
お袋が危篤
数年に及ぶ認知症の果てに

俺を産んだ女
俺を育てたかも知れない女
ほんとうはほとんどほったらかしだった

親父の母親に任せっきりで
自分は金を稼ぐのに一生懸命だった

世間によくいる
我が儘で酒好きで癇癪持ちで
虫の居所が悪いとすぐ激昂し
暴力
暴力
暴力
に走る男
それが俺の父親だった

そんな親父に日常的にいたぶられていた女
顔色ばかりうかがって
ひたすら忍従していた女

晩年は物忘れをきわめて
可愛い筈のせがれの顔も名前も見事に忘れてくれた


お袋の危篤を知らせる為に兄貴が俺の携帯を鳴らした日に
俺は車を暴走させられずに
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