爪がのびて/こたきひろし
 

人は誰でも神からの余命宣告を持って生まれて来たに違いなかった

医者が
例えば治癒の見込みを断たれた末期の癌患者にするみたいに
相手のダメージを推し測り、計算を加えながら
絶望の暗闇に僅かな明かり投げ掛け
その精神への痛みを少しでも柔らかくするために
相手の様子を伺いながら有効な言葉を探し当てるだろう

しかし
だけどいかなる医者に取ってもその根源にある思いは
他人事に違いないのだ
だから冷静にそして穏やかに言葉にしてしまえば
その後は単純に自分に安堵して、与えられた仕事として割りきるだろう
だから一日の仕事から解放されたら
普通にごく普通に家に帰るだろう

でも私は医者ではないから全ては勝手な想像に過ぎない

人は誰でも神からの余命宣告を携えて生まれて来たに違いなかった

一度でも切らなければ果たしてどこまで爪はのびるだろう
生命は
どこか爪に似ているような気がした
いったい何の為にこの世界に存在するんだろうか
指の先にのびる爪みたいに
どこまでものばせはしない

切る前提て指の先にのびて来るに違いなかった




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