こんなにも知らない/ベンジャミン
 

傾けた視線の先には
何も映っていないように見えたこと

帰り道
車の窓から見えた景色の一つ一つが
過去に押し流されてゆくみたいで怖かった
あなたは
シートに身体をあずけて
窓ガラスが
まるで透明な壁のようだと言いたそうに
黙っている

忘れたくない
やがて沈黙が語り始めるほど
あなたを知ることができたとしても

こんなにも知らないという
その悲しみを

たとえばいつか「覚えてる?」と聞かれたときに
笑って「何も知らなかったんだよ」と言える
そんなささいな会話の中で
傷つけないように

そのための悲しみなら


透明な窓ガラスの先には
前をゆく車のテールランプが見える
加速してそれを追い越すとき

あなたが見つめているのが
どこか遠くの景色だとしても
僕は知らない

見晴らしのいい道になったとき
スピードを落としながら
ゆっくりと話し出す
その時まで

こんなにも知らないまま
走り続ける


   
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