影をひく、日向にぬかる/吉兆夢
 
に抱きしめて、生きていけるような
「きょうは天気がよいのできっとカシオペアがきれいだね」
言いさした咽にオナモミが刺さって
、翳っていく
 、音もなく
伸された影が錆びたチェーンに絡みつき
坂の終いには
夜が、
真っ黒い夜がもう
側溝のあちこちから溢れ出している


わたしはまだ
あの汽車には乗れないのだろう
見送ることもできないだろう
林間にちらりと見えたアワダチソウの海
を渡っていった二つの影も
光量をしぼった幻燈のようにやさしくぼやけてはくれない
灯りはじめた洋梨の実を鞄に詰めこめば詰めこむほど
照らし出されるあなたの不在に完全な夜を見てしまうから
、けれど、きょうは、天気がよいので、
終止線を添えた五線譜を携え、黒々と立ち並ぶ電信柱の頭上に、
そらは、
(あまりにあかるくすきとおって、あめさえひかってみえるから )
わたしの目は産声をあげ
わたしの口は死んでいく
ペダルが回っていつもの顔が
木洩れ日のまだらを
走り去るまで



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