記憶の海/長崎螢太
夜が、急行列車のように
時を、間引いて、過ぎていくから
夢と現実の境界線は、いつも
曖昧に、滲んでいる
抱き締めあう行為は、
波のようなリズムを、刻みながら
深い海に沈んでいく、
そんな感覚
沈んでいくとき、口から溢れる泡のように
記憶が、水に溶けるように、消えていく
初めから何も、
存在して、いなかった、ように
光りのあまり届かない、藍色の
深い海の中で
胎児のように丸まっている、私に
聴こえてくる、幾つもの子守り歌は
消えていった記憶への、レクイエムなのか
日常が、海の水圧で解体されては
ゆっくりと潮流に乗って、離れて消える
肉体は、波が少しずつ削って、過去のものになるけど
魂は、またどこかに、宿るのだろうか
海は、答えてはくれず、
夜が、いつまでも、明けない
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