絆創膏と紙コップ/ホロウ・シカエルボク
なんて俺たちには到底理解出来ない。」
マスターは少しだけ首を横に振った。違うんですよ、と、小さな声で言った。
「なんだって?」
「彼に、最後まで聞けなかったことがあるんです―その、トラックの運転手っていうのは、私の兄なんですよ。」
俺は驚いて声も出せなかった。そんなこと本当にあるんだな、そんなふうに考えていた。
「あの人は知っててここに来たのだろうか、すべて判っていて、私に被害者としてのその後のことを聞かせに来たのだろうか。どうしても聞けなかった。どうしても…。」
話はそれで終わった。味が薄くなった酒を飲み干して、俺は店を出た。高い空に小さな月が出ていた。星はネオンライトに隠れて、ほんのわずかしか見て取ることが出来なかった。客待ちのタクシーがたくさん並ぶ通りを抜けて、家へと続く小道へと歩いた。たくさんの見知らぬ死が少しの間まとわりついていた。けれどそれも眠ればきっとどこかへ行ってしまうだろう。
【了】
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