海上へ 2018・7-8/春日線香
 
いつからか歩道橋の上に車椅子が放置されている。まるで車椅子だけ残して誰かがそこから飛び降りたようでもあるが、幸いなことにそんな話はないようだ。車椅子は見るごとに位置を変え、ある日は歩道橋の中心に、またある日は極端に端に寄ってほとんど階段から落ちそうになっている。むしろ落ちてしまえばいいと誰もが思っているがなかなかそうはならず、陽の光を浴びて順調に錆びつき、時々は蝶も留まっていく。


         * * *


いい大きさの箱の中にかぶと虫を詰める仕事をしている。それは静かな夜明けから始まり、広い屋敷の片隅の部屋でたんたんと続けられる。たまに庭から吹き通る風にあおられて、箱が倒れ
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