某式日/青花みち
 
2月の心音を思い出しながら、8月の憂鬱を海に流した。夏の夜はきみの瞳の色をしていたの。拾い集めた星屑を沈めて、ひかりを宿して、わたしの再生が始まる。こうしていまさら思い出すのは線香花火のにおいや、なだらかでぬるい風の角度、まつげとまつげの合間で区切られたきみの顔、その他なんとなくで形が浮かぶいろいろ。
切り裂かれたマグマが降りかかり、鉛色の雨で空気が冷やされると、地中に埋められていた熱がふたたびわたしたちを燃やして、残暑だねと、きみはつぶやいた。生きていけるかな、と浅く呼吸していた。大丈夫だよ。冬には冬の心臓を、夏には夏の心臓を。ひとつめの心臓が朽ち果てても、ふたつめみっつめが合図を待っている。季節に追い立てられるのと同じ速度でわたしたちは鼓動を打ち鳴らす。ようになっている。それが希望でも絶望でも、望んでも望まなくとも。
夏の夜、きみの瞳の色、虹彩の裏側にいるようで本当は少し怖かった。大きく息を吸って、左胸に手のひらを押し当てる。新しいわたしの心臓。これは9月の心臓。花火の燃え残りをかき集め、砂浜で拾ったライターをカチカチと鳴らす。ひかりを灯し、夏を見送った。きみの再生が始まる。
戻る   Point(6)