呼ばれて振り返ると/こたきひろし
呼ばれて振り返ると誰もいない
名前を呼ぶ声がしたはずなのに
気のせいか
あるいは他所の人が呼ばれたのか
停留所でバスが来るのを待っていた
百貨店の大きな建物の前だった
黄昏がその幕を垂らし、街は鬱の表情を見せていた
もう一度名前を呼ばれた。若い女性の声に聞き覚えがあった
「こたきさん、乗ってかない?」
いつの間にか流行りの車がバス停の側に停まっていた
助手席の窓が開いて小林敦子が声をかけてきた
運転席に目をやると知らない顔の男が憮然としていたあっちゃんの彼氏?
彼氏?私は敦子に聞こうとすると、彼女はすかさず車から降りてきた
私の直ぐ側に近づいてきて耳の近くでそっと
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