からまるイヤホン/高林 光
 
ようだ。ぼくには聞こえないのだけれど
怒気に満ちているらしい。それは伝わる
あわててテーブルにころがるイヤホンの先を
左耳に差し込んでみたけれど
聞こえてきたのは
二人で行った雑貨屋のおしゃれなマグカップの話で
その軽やかな口調と女の表情とが
まるで一流の腹話術でも見ているように
なにひとつ調和しない

女は不意に立ち上がり
その拍子に喉元のジャックからイヤホンが抜けた
ぼくはようやく本当の言葉が聞けると思って
左耳からイヤホンを外したのだけれど
女は黙ったまま
醒めた目でぼくを見つめている

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