からまるイヤホン/高林 光
ふたつのアイスコーヒーをはさんで向かいに座る女の
喉元に何故かイヤホンプラグが刺さっていて
女は何かを話しているらしいのだけれど
ぼくには何も聞こえない
滑稽に口を動かしている女は
穏やかな笑みを口元に湛えていて
ぼくには何も聞こえないけれど
なんとなく安心はしている
女の喉元から伸びるイヤホンの先が
無造作にテーブルにころがっているが
その言葉を聞く必要はないような気がして
ぼくは女の顔を見ながら
時折、うなずいたりもしてみた
そのうち、不意に女の口元がゆがんで
目を大きく見開き、じっとこちらを見ている
女のゆがんだ口元が大きく開いて
何かを言っているよう
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