火ぶくれのハクチョウ/田中修子
わたしを壊してとお願いすると
あなたはもうとっくに壊れている、と耳を噛むのね
ひもじくてひざこぞうのカサブタを
食べた記憶をくちづけたら
眉をしかめて吐き出さないで
わたしそのものを
おばちゃんと編んだイラクサをおぼえている
わたしたちほんとうは
きっと尊いものなんだから
はやくチョッキを着て
ハクチョウに変身してここから逃げ出そうね
いっしょうけんめい、火ぶくれになった手
わたしはハクチョウになる前に
悪いお母さんに飢え死にさせられ
はらぺこりんの幽鬼になっちゃった
おばあちゃんはひかる湖のうえ、飛び立てたわ
白いお骨はただのあしあと
わたしがふれたものは
すべて青白く燃え上がって食べられないの
おなかへった
とかなしむふりをすると
あなたはただ全身を火ぶくれにおかされて
完治しないあわれな子どもだ
と
わたしを目覚めさせようとする男たちが
気色わるく胸元をまさぐる
泣き笑いしながら
カサブタを食むように
舌をのみこんでいった
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※日本現代詩人会 投稿作品
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