枝垂れる文字も夏の蔓草/ただのみきや
線香花火の玉落ちて
地平の向こうは火事のよう
昼のけだるい残り香に
なにかを始める気も起きず
夏の膝の上あやされて
七月生まれの幼子は
熟れた西瓜の寝息させ
冷たさと静けさの
内なる潮路辿りつつ
満ちては欠けて
欠けては満ちて
ある日唐突に落ちて来る
神々しい臓器の
質感に凍傷(やけど)して
小魚の群へと瓦解する
縫い付ける傷口の問いかけに
ちいさなパライゾは逃げ出した
野の花々は身を捧げる
月のスカートの中を覗きながら
こどものころ諦めた知恵の輪を
またもこうして諦める
火の粉がシュッと鳴いた
見つめる眼に吸い込まれ
廃墟ひとつ分の
渇きがここにはある
《枝垂れる文字も夏の蔓草:2018年8月1日》
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