百億光年の彼方に/梼瀬チカ
 
遠い夜空
冬の
それは
あくまで
澄み切って
冷たく
北極星が
私たちを回転させる
一定の法則と
一つの真理と
ひとかけらのノスタルジー
いつかこんな夜空を
見上げた夜が
静かに
回転している
寒さの中で
それは止まっているようなのに
オリオン座が
東の空にある
凍えた手で
電話の受話器
握りしめ
何度も
躊躇した
デジタル回線の
ボタンは
正確に
順番を知っている
聞こえたコールは
3回
「もしもし」
と言う声に
「もしもし」
と答えられず
私の中では
たくさんの言葉が
たくさんの声が
溢れているのに
唇は
固く結ばれたまま
受話器は
下ろされた
何が
何が言いたかったんだろう
伝わらなければならなかった
想い
夜は更けてゆき
私は
熱い
紅茶のカップに
手をつけている
オリオン座が
西の空に
傾き出した
私は何処にいたのだろう
誰も知らぬ
この夜空の終わりの
夜明けを告げる
足音がする

 




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