野性の夜に/そらの珊瑚
 
小さく尖った歯で
骨付き肉に喰い付くと
遠い昔がよみがえる
自分がまだ産まれてもいない
遠い時間の記憶が

タイムマシンはまだ発明されてはいないけれど
かたちのないタイムマシンはいつだって発動される
乗って行っても
未来が変わる心配などいらない

体験していない記憶というものも
たぶんあって
たとえば海を見ていると
理由の見当たらない懐かしさでいっぱいになる
現世でふるさとと呼んでいる場所とは
別の次元のふるさとが
海のむこうにあるのだろうか
波がひとつ
人がひとり
寄せては去っていく波のしくみと
生きては死んでいく人のしくみは
違っているけど
どこか似ている

あいにく今夜は停電
わたしたちは生き繋いでいた
蒸し暑い洞窟の中で
肉をはがされた
つやつやの獣の骨を
魔除けのかたちに積み上げていた

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