夜の忘備録/ただのみきや
 
夜にはあれほど潤んだ月が
今はただ白く粉っぽい
褪せた青いテーブルクロスに置かれたままの紙切れ
書かれていない恨み言

呼吸を忘れた小鳥たち
見交わす一瞬の生と死を包み込む愛が
朝に急かされ飛び去った
車や家電が唸りを上げて歩き回る頃に

量生された人形に時代の気色
夜店の射的のコルク弾
頭の比重が大きすぎて
倒れたら起き上れずに自尊心をばたつかせ
灯した愛憎が一晩中影を揺らしていた
アンティークになれない人形が
ゴミに出されて濡れている

雨の散弾 
爆ぜる音
目蓋は鍾乳洞
かすかな
光の喘ぎを
水の踊り子はこぼれ落ちる裸体に切れ切れに纏う


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