ムーランルージュのふたり/そらの珊瑚
「ノン。鏡に映るものだけが真実とは限らない。舞台の上のキミもまた真実。虚構という真実をボクらは生きていくんだ。喜劇という名の真実をね」
ジャンとマリアが演じる喜劇は、ジャンが扮するモテない男と、マリアが扮する人形のお話だった。筋書は、男が恋の悩みを人形に相談し、そのアドバイス通りに好きな女にアプローチするのだが、ことごとく失敗する。それはそのはず、人形は毎回わざと女に嫌われるようなアドバイスをした。くだらないドタバタコメディだったが、お決まりの結末と分かっていても観客は笑った。
「あたしもうすぐ三十歳よ。そのうち、おしろいを塗りたくってもごまかせなくなる」
「心配無用。劇場の照明係に倍の
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