ムーランルージュのふたり/そらの珊瑚
倍のライティングを頼んどくから。マリア、キミは最高のコメディエンヌだ」
馬鹿じゃないかしら、とマリアはジャンを睨んだ。そんなに強烈なライトを当てられたら、暑くておしろいは溶けてしまう。汗まみれで、まだらになったあたしの顔を見て観客はぞっとするに違いない。いや、それはそれで笑うだろうか。失笑って奴だ。それでもいいか。笑われれば笑われるほど、あたしたちの給料は増える。
「ところで、あなたの恋人は元気?」
お芝居の中の男と違い、現実のジャンは案外モテる男だった。しかしその恋はいつも長続きしなかった。
「ミレーヌの事かい? あいつとはとっくに別れた。他に好きな男が出来たんだとさ」ジャンは首をす
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