隣の工場の煙突/こたきひろし
 
濯掃除にたけていたわけでもなかった。
なのに別れずに何とかやって来れたのは彼女が娘を二人産んで育ててくれたからだ。
下手をしたらその一語に尽きるかも知れない。
上の娘が幼稚園に通い出した頃、それまでの借家住まいから家を買いたいと言い出したのは彼女の方だった。二人の子供を抱えて一杯いっぱいの生活の中で私一人の稼ぎでは到底無理だと反対したが、彼女は言い出したら聞かない性格で、その時に自分も働くからと強く約束してくれたが私は内心無理だと思いながらはっきりとそれを口に出来なかった。
彼女は自分の親に頼んで援助をして貰うからとも言った。
現実に義理の両親は頭金を出してくれたが、私の方は父親に相談の電話をしただけで一方的に切られてしまった。

あれから二十数年。娘二人は成人し何とか家も維持してきた。
私が定年で職を失い精神的に追い詰められた妻は一時期おかしくなって心療内科を受診したが、上の娘の経済的な援助を受けて何とか立ち直ってきた。

私に詩など書いてインターネットに投稿している余裕など有るわけがないのが実情だ。
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