老人/ただのみきや
 
67年はドアーズとベルベットアンダーグラウンド
ビートルズはカソリックの聖人並みだった
だが風は澄んだまま
スギナの森深くダンゴムシが触覚を振っている
老人は髭を撫でながら手を振って応えた
全知ではないが知るべきことは全て知っている
小川に手を浸すように時間の流れを感じている
だけど風上に向かって素っ裸で走り出すには
敵が老練すぎたし
世界はもう?せっぽっちの鶏にしか見えなかった
家族は何処へ行ってしまったのだろう
なんて惚けた一人芝居を楽しんでいる
頭の中が辺りへ溶け出しているのが楽しかった
光のシーツを被って足をばたつかせる子どもだった
蝶が寝室の暗がりへ誘った
女の唇がロウソクの炎を吸い取るように
意識の一角が崩れ去る
寒天みたいな夏が来る前に
脳の表に刺繍を入れておこう
大きな声で歌い始めると
箪笥が笑いながら倒れて来た




              《老人:2018年5月26日》










戻る   Point(5)