老人/ただのみきや
まむという意思に対する指先のレジスタンス
腹立たしくも為す術なく
老人は宛名も切手もない茶封筒になって蝶を追った
天気は相変わらず斑模様
近くの小学校で運動会をやっているのか
声援や音楽が時間差で風に揺れる風呂敷みたいに被さった
幽霊たちがお遊戯しながら耳の奥を潜り抜ける
玩具と御菓子 汗と埃
雲雀の声が随分高く……と思った途端 沈黙
予期せぬ空白に老人は栗鼠のように静止した
すぐ傍を無言で通り抜ける赤い自転車
木々ほど受け身ではないが
詩人ほど無節操でもない
騒めいても言の葉ひとつ散らすことはしなかった
十二時には帰宅してNHKのニュースをラジオで聞く
北朝鮮とシリ
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