老人/ただのみきや
鶺鴒はすばしこく歩き雲雀は高く囀っている
生憎の曇りだが風は早足
日差しが覗けば芝桜も蜜を噴くだろう
虫たちが酔っ払って騒ぎ出すほどに
脇目もふらず歩く老人の後を付ける
サメの背びれだけが光を返さない黒で
凡そ全てが銀のプランクトンを纏っていた
老人は鯨よりも大きなショッピングセンターに飲みこまれ
原色の野菜の森で少女の腎臓のようなトマトを指で突く
週に一度の儀式を通して指先から全身に流れ込む力がある
ささやかな背徳が張りの無い皮膚に泡立つころ
数日続いているニュースについて独自の見解を述べたが
キャベツも白菜も解脱していて
仄暗い生の青さを浮き立たせながら冷たい霧に紛れ
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