渇いた河に/こたきひろし
その夜、女は死んだように眠っていたのではなく、眠るように死んでいたのだ。
地方を走る国道沿いのラブホテルのベッドの上で動かなくなっていた心臓はもはや一円の値段もつかないだろう。
女の股間には情交の痕跡が残っていたが、受け入れた体液の持ち主は姿が見えなくなっていた。
それは女の体がオーガズムに達した瞬間に心臓が麻痺を起こした結果だった
男は思わぬ事態にパニックに陥りながらも、徐々に冷静さを取り戻すとホテルから逃亡した。
ラブホテルの一室から出る前に、男は女の顔に細工した。死に顔に安らぎの表情を施したのだ。
男は女の持ち物から化粧道具を探しだすと、女の渇いた唇に、口紅を塗った
それから何の躊躇いもなく部屋を脱出した。
残された女の遺体の顔は可愛くて美しかった
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