劇 場/塔野夏子
青ざめた喜劇役者が
陽気に痙攣している
何を間違えたのか
この照明はやけに明るすぎる
恐ろしい青空に
巨大な広告塔たちがそそり立ち
だだっ広い国道を車たちが
獣のように流れてゆく
その脇の狭い舗道を心細げにただ歩いている
小さな人物が
主役だろうか
書き割りのような見者の群れは
一様に灰色
時折そのあいだから
緑の丈高い草がすうっと伸び
また消える
工場は港のそば鈍重に居座って
もはや何も産み出しはしない
それなのに赤紫や黄みどりやらの
奇怪な煙を吐き出しつづける
夢のようにきらびやかな祭りが過ぎる
と見るまに
鉱夫はその黒ずみつくした手
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