滲む記憶/田中修子
わたしは おとうさんを 壊してしまいたい 愛してほしいから おとうさんの母像を父像をコテンパンに破壊して ゼロからつくりあげて……
でも壊れてしまうのね
わたしは 愛している
愛しているということに ようやくすこし 手がとどきそうよ
愛しているということは
お母さんはお父さんと性行為をしてわたしを
産んだけれど わたしは 本質的には
愛されていなかったということを受け入れるということ
なんで 愛されていなかったの それは 父の母がね 父の父がね 母の母がね 母の父がね……
(すべての記憶は折りたたまれながら
地層の脳にある
宇宙の、神の、人類の、生誕
アカシックレコードと呼ばれるものは
ひとりの脳にあるでしょう
しかし たいていは
人として壊れてしまうから
思い出さないふりをしようか)
それはわたしの
わたしに連なる生の
すべての否定
愛は
死だ
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