階段の森/塔野夏子
いつもの二階への階段をのぼっていたら
いつしか階段が森になっていた
のぼってゆけばゆくほど
森が深まる
樹々が茂り
鳥の声も聞こえてくる
のぼってものぼっても
いつもの二階にはなぜかいっこうに
たどりつかないのだけれど
深まってゆく森の景色を見ながら
階段をのぼってゆくのが楽しくて
いつもの二階にいつものようにたどりつけないことなど
どうでもよくなってしまった
この階段の森をどんどんとのぼってゆけば
いつもの二階だけじゃなく
すべての「いつも」から脱け出せるんじゃないかと
このまま森の深みに入っていって
もうどこへも帰らなくてよくなるんじゃないかと
ねえもしかしたら
この階段の森をずっとのぼって
のぼりつめたらそこには
もういなくなったはずの君がいるのではないのかな
と思ったとたんに
階段の森はかき消えた
何の変哲もないいつもの階段で
二階へとたどりついてしまった
いつものドアを開けて
「いつも」へと帰ってゆくしかないんだね
君を忘れて
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