遠雷/こたきひろし
遠くで雷が鳴っていた
空にはいちめん暗雲が垂れ込めて
もうじき降ってくるに違いなかった
私は乳呑み子
母の背中におんぶされてすやすやと眠っていた
のに
遠雷に目を覚まされ火を浴びたように泣き出した
その鳴き声に父親は苛立ち母を叱りつけた「五月蝿いから泣き止ませろ」
その理不尽な怒鳴り声に
私はいっそう声を大きくして泣いた
母は背中から私を降ろすと必死になってあやし出したが
私はいっこうに泣き止まなかった
母は胸を開くと我が子を抱きながらあらわにした乳房の先端を我が子の口に含ませた
その時
激しい雨が降ってきた
いつの間にか私は老いて少年になっていた
反抗期に飲み込まれた私は 時に母を罵倒した「うるせぇよババァ」
少年の心はねじれ歪んでいた そして傷ついていた
だから、悪くなって悪い仲間と群れて遊んだ私は
さんざん
母を泣かせ苦しめた
気がつくと私はつまらない大人に成り変わっていた
私の耳の奥ではいつまでも遠雷が止まなかったから
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