ほんとうに言いたかったのはたぶんそんなことじゃなくて/ホロウ・シカエルボク
女は長距離バスに乗るためのトランクを抱えて出て行った
霧が叩きつけられているようなじめついた夜だった
ぼくは窓の側に椅子を持って行って
もう二度とこちらを振り向かない背中を眺めた
それからラジオでどうでもいい音楽を聴いて
まるでどんな出来事も起こらなかったみたいに大きな欠伸をしてから眠った
そう、確かに
エンドロールがすべて終わったのだ
客電がついて
空っぽの椅子だけが残った
ぼくのスクリーンには
厚みのある幕が引かれた
まるで
器用なめくらになったみたいだった
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