海鳴り/こたきひろし
海を見たくなって車を走らせた
海水浴場の駐車場に車を止めた
季節は外れていて風は冷たかった
それでも車はまばらに停車して 人が砂浜に降りていた
日はくれて夕の闇が迫っていたのに
恋人たちは肩を寄せあっていた
海鳴りが聞こえた
鳥が鳴きながら飛んでいた
水平線は遥かに遠く
私は海に飲み込まれてしまうかもしれない
私は砂浜に降りてはいかなかった
死者の霊が海から這い出して来る
そんな想像をしてしまい
震えた
海に呼び出されて来たけれど
引き込まれそうで怖くなった
帰りたいと思った
明日は晴れるだろうか
明日は来るだろうか
と
空を見上げた私は一人ぼっち
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