おだやかな水の流れがすべてを飲み込んでいくように/ホロウ・シカエルボク
 
中で予定外に目覚めてしまったみたいな目をしている、ぼくはきみの傷の治療をする、太陽がぼくの延髄を炙る、煙が上がり始めるんじゃないだろうか、とぼくはくだらないことを考える、沸騰した血液のように表皮に沸き上がった汗が幾筋かの線を描きながらシャツの中へ落ちていく…傷が痛まないように静かに絆創膏を押さえると、それが合図であったかのようにきみは戻ってくる、「ショートパンツを穿くのはやめたほうがいい」とぼくは忠告する、「でも」ときみは抗弁する、「それを穿かないと暑くてやりきれないもの」きみの当然はときどきぼくをひどく落ち込ませる、「ひざがぼろぼろになってしまうよ」心配しているんだ、という気持ちを込めてぼくは念を押してみる、きみはにっこりと微笑んで「行きましょう」とはぐらかす、手を差し出して立ち上がるぼくを引き上げる、そんなことをしなくてもぼくは立ち上がることが出来る、そのまま手を繋いで僕らは立ちあがる、劇薬のような陽射しの下、その場所に生じた少しの歪のことを世界はすぐに忘れてしまうだろう、きみの傷が夜にずきずきと痛むとき、きっとそれが歪の最後の記憶になる。


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