桑田佳祐と黒い鞄/MOJO
 
うなのか、と意外な気持ちになる。
杯を空けるごとに酔いが回り、私は、前後不覚に陥ってしまう。
立ち飲み屋の、カウンターの奥に、経営者と思しい老婆が暮らす部屋があり、そこで目が覚めた。
私は、汚い煎餅布団に横たわっている
とっさにジーンズの尻ポケットに手をやり、財布の有無を確認する。
財布はあった。
しかし、背負っていたデイパックが見当たらない。
火鉢の横に、白い割烹着を着た老婆が、ちょこんと座っている。
「リュックサックがない」
「そこにあるよ」
老婆が指さすところを見ると、古びた三面鏡の横に四角形の黒い鞄。
はて、私はデイパックを背負っていたはずだが、今日は鞄にしたのだったのかな?
そんなことより、桑田はどこへ消えたのだろう?
とりあえず、財布は無事である。
それだけでも、良かったじゃないか。
リュックサックか鞄か、そんなことは、大した問題ではない。

このあたりで、目が覚めた。
まだ朝の六時前であった。
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