滑車/伊藤 大樹
 
いのちを挽いている
音がする
林檎を剥いたら
もういちど飛べるかもしれない

鳥は
鳥という記号に
耐えているわけではない
人は
人という記号に
耐え続け
そのため
もうながいこと 人には羽がない

なにかを知った、
ということは
なにかを手放した
結果なので
感情が
私の意志から
しだいに剥離していって
みにくい素肌を
日に晒すことになる

私の孤独が焦げて
雲はねむっていた

過ぎた季節のこだまが
私のもとに帰ってくる
金おろし一面に
すりつぶす
一顆の林檎



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