冷たい桜の花びら/坂本瞳子
 
桜の花びらが散り尽きてしまったら
なにが起きるのだろうか

今抱えている不安すべてから
解き放ってくれるだろうか

一歩前に進むことはできるだろうか

桜の花びらは冷たい

無数の別離(わかれ)や出会いを
見守っているふりをして
温もりを伴うことなく
春だというのに

横殴りの強い雨を降らせ
花を散らし
大地を汚し
川面を埋めて
春の嵐だと誇張する

桜の花びらは冷たい

後ろを振り向くことなく散り去る
物音立てず
影も落とさず
萌ゆる薄黄色の月が光を放つなか
ひらりひらりと舞うように
温もりなど持ち合わせぬその花弁を
燃ゆる蝶の羽のごとくにはためかせ
炎立たせて
堕ちてゆく
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