桜の樹の下へ/長崎螢太
 
夜明け、窓を開けると
空に、明星が瞬いている

テーブルにこぼした煙草の灰を
手で、掬いとっているうちに
夜が終わっていく

春先の暖かい雨は、降り止み
朝日が微かにひかる
神経が泡立つ



開け放れた窓
カーテンが揺れる先の
桜の花を眺める

花びらの散る音が聞こえる
薄紅いろの淡い
花の音
あるいは風の
うすい色

花吹雪で現れた銀幕に
記憶のかけらが、幾つも散っていく



目のまえに手をかざす
仄白く、青い指先
霞んでいく視界のなかに
幾つかのひかりをみる

いつの間にか、あたりは明るい
吹きこむ柔らかな風が、外へ誘う
春の淡い外気

足のうら
大地の感触を踏みしめ
桜の樹の下へ







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