桜の樹の下へ/長崎螢太
夜明け、窓を開けると
空に、明星が瞬いている
テーブルにこぼした煙草の灰を
手で、掬いとっているうちに
夜が終わっていく
春先の暖かい雨は、降り止み
朝日が微かにひかる
神経が泡立つ
開け放れた窓
カーテンが揺れる先の
桜の花を眺める
花びらの散る音が聞こえる
薄紅いろの淡い
花の音
あるいは風の
うすい色
花吹雪で現れた銀幕に
記憶のかけらが、幾つも散っていく
目のまえに手をかざす
仄白く、青い指先
霞んでいく視界のなかに
幾つかのひかりをみる
いつの間にか、あたりは明るい
吹きこむ柔らかな風が、外へ誘う
春の淡い外気
足のうら
大地の感触を踏みしめ
桜の樹の下へ
戻る 編 削 Point(5)