誰にも奪えないもの/狩心
 
海や川は幸せだ
何処かへと注ぎ込むことができる
水溜まりは悲しい
道に水溜まりがあると
足を止めて話しかけてしまう
そしてそこに
私の姿も映る

君を想う
形を無くしてしまった君を
 掬い上げて
溢れ落ちないように
 体内に流し込む
食道を伝う命が冷たい
私の胃の中で
温まるだろうか

ぐったりと寝そべって
地中の音を聴く
地獄の底から私の元へ
駆け寄ってくる君が見える
私はアスファルトを
爪が剥がれるまで掻きむしった

君の思い出が私に憑依する
私は裸で都会の喧騒を走り回った
そして警官に取り押さえられて
そいつらの顔面の肉を食らった
 食道を伝う命が温かい
 私の意の中で
 冷めるだろうか

ビルの階段を駆け上がる
何処かへと注ぎ込むことができる
 水になれる気がして
100階まで辿り着いた時に気付いた
 私は絶望することができる
 そして苦しみの中
 死ぬことができる

君を想う
苦しみの先に必ず幸せがあると
俺は言わない
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