暗闇のなかでは/こたきひろし
ら楽しみにして
と彼女は言った
僕もねむるよ
答えて間もなく男は寝息を立てた
彼女の借りているアパートの部屋だった
独身の女の部屋に男を泊まらせるのはちょっと気が引けたから
男と会うときは外で した
でも最近隣室に若い女性が引っ越してきて 周囲を憚る事なく男性を部屋に引き入れた
アパートの防音はしっかりしていない
夜 隣の部屋の男女の会話が聞こえなくなると かわりに雌雄の息づかいが忍び寄ってきた
耳を塞ぎたい気持ちと裏腹に聞きたい衝動にもかられた
嫉妬も感じない訳にはいかなかった
その鬱憤を晴らす為に彼女も男を部屋に引き入れた
朝
彼女は男より先に起きた
キッチンに立ってまな板の上で菜を切り 鍋に水を張って瓦斯台に乗せて火をつけた
ご飯は炊飯器で炊き上がり
魚を焼いて卵を目玉焼きにした
男と二人 朝食をすませると
男女は別々の場所に出勤していった
戻る 編 削 Point(0)