金の林檎/ただのみきや
 
エンジンを切った軽ワゴンの屋根を打つ
冷たい春の雨のリズム
捉えきれないπの螺旋を
上るでも下るでもなく蝶のタクトで
震えている灰を纏って朝は皮膚病の猫に似る


   考えている
   りんごの皮を剥く指先は
   なるべく薄く途切れずに

   考えている
   美しくこぼれる指先は裸で
   転がしている果肉に刃あてて

   考えている
   おれそりうごめいて指先は
   静止を重ね記憶を連ね


こみ上げて押し寄せるものに言葉を着せる
人も手足も千切れて流されて
もの言わぬ貝殻や流木となって辿り着いた
悲しみは精製されうるのか
生きること
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