空を彫る者/ただのみきや
 

理科室の暗幕のようでしかない脳裏の宇宙も
青白いランプの炎か
ランプの照らし得た狭い事象か
質感もなく触れて
実感もなくその一部分である
全体から
目だけを逃がす鳥のように
眼孔虚ろな屍の歩行を追いながら
削って往く
書くことは
削ること
足すことでない
茫漠とした全体から
空ろな現から
ひとつの像を彫り出して往く
世界の中にそれは最初からなく
仕上がった後に
世界はそれをも包含していたと
言うのは容易いが
何処にもなかったのだ
彫り抜いて見せたのだ
そのかたちに

可能性の無限なんて
三面鏡に首を挟み込むようなもの
せいぜい変装して映り込む
意識の底の自分たち
気楽に苦しめばいい
誰に頼まれもしないのに
創作に熱を上げているなんて
生来の愚か者
生きながらにして死後の罰を受けている
幸福な人たちだから




              《空を彫る者:2018年3月7日》








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