記憶喪失/こたきひろし
 
何だお前も記憶喪失か」
「お前もって?」
彼が聞き返すと犬は言った
「実は俺もだ」
「えっ?犬も記憶を喪うのか」
彼は驚嘆した
「喪うさ だからこうやってさまよってるんだ」

「そんな事はどうだっていい」
犬は語気を強めた「お前は人間だ いくら記憶をなくしても食い物ぐらい調達出来るだろう」と
言ってから
「俺が牙を剥いたらお前ぐらい噛み殺せるんだぞ」
脅してきた

冷たい風と暗闇の中で人間と犬の争いがしばらく続いた
人の悲鳴があがり辺りが静寂に閉ざされるまでは


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