記憶喪失/こたきひろし
街路樹の枯葉の上に倒れていた彼は
気がつくとすっかり記憶を喪っていた
その時間は午前零時
深夜の街に人通りは絶えていた
痩せた犬が何処からともなく現れて彼の耳を舐めたから目を覚ましたのだ
犬は首輪がなく
腹を減らした眼をしていていた
明らかに野良犬だが
「お前は食い物にならない 何でもいいから食い物を探してもってこい」
たしかに人間の言葉で彼に命令してきた
彼は犬の命令を素直に聞くわけにはいかなかった
そのかわりに答えた
「犬の分際で人間に命令するな 第一俺は自分がどこの誰で何でここにいるのか解らなくなってしまった」
言葉を続けた
すると犬が言った
「何だ
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