おだやかな道にとどまろうとしたって/ホロウ・シカエルボク
 
いんだけど…ちょうど午後の便がくるころよ」
わたしが送ってあげられればいいのだけど、と、彼女は困ったように笑いながら付け足した
「もう、車に乗れなくなってしまって」
俺は何と答えるべきか判らず、彼女と同じような顔をして頷いた、ふふふ、と彼女は笑って、もう行ったほうがいいですよ、とおどけて追い立てる真似をした
「あとは夜になってから一本だけだから」
俺は礼を言って、そこをあとにした、本当にあっという間にバスが来て、滑り込みで乗ることが出来た、窓からさっきの店を眺めたが、彼女の姿はもうなかった


そうして俺は、すんなりと街へ帰ることが出来た、シャワーを浴び、食事をして、音楽を聴きながら椅子で少し眠った、それはそれで終わったことのはずだった




でも、なぜだろう、あの車止めの上に、たくさんのものを忘れてきたような気がしているのは―。

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