おもかげ/梓ゆい
白いゆりの花を飾った夜
父の遺影は
より優しく穏やかに見えた。
「きれいな花だ。」と
喜んでいるように
私の心が感じ取ったのでしょう。
台座に置いた骨壷の箱が
明かりを消したはずの畳部屋で
浮かび上がって見える。
暖かな首筋に触れたとき
父がいつでも起き上がれるように。と
枕元で正座をしていた。
心臓が再び動くことを願い
布団をめくり
手を組んで眠り続ける父の胸に
耳を当てていた。
霜で覆われた冷たい手の感触を
今でも覚えている。
目がくぼみ
こけた頬についた深い影の横顔を
今でも覚えている。
手のひら大の石で叩いた棺の音を
今でも覚えている。
箸で摘んだ骨の感触を
今でも覚えている。
街頭に浮かぶバス通りは
この世とあの世の境界線
どこからか聞こえてくるはずの
父の足音を聞き漏らさぬよう
私は一人
息を潜めてバス停に立つ。
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