水虫ジュク夫「記憶喪失」/花形新次
 
脳が軟らかすぎて
耳と鼻から
流れ出てしまいそうなとき
朝の結露した窓を
人差し指でなぞる

「川」

唯一覚えている文字は
水滴とともに
もっと長い流れになって
やがて消えて行く

ずっと昔から
川しか書けなかったことも
もう忘れてしまった

そして、それは良いことだ

自分の過去を
鮮明に覚えていたら
自意識に押し潰されて
それこそ
「恥の多い人生を送って来ました」って
川に飛び込むことになるだろう

しかし、記憶がなくなって行くことで
私は自分がバカであるという
記憶からも解放され
初めてどんなに恥をかいても構わない
真の自由を獲得
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