バースデイ/ヤスヒロ ハル
誰もいない映画館
静寂味のポップコーンは無矛盾
映画泥棒は来ない
荒れ気味の画像に3カウント
見慣れた女性に抱かれた
地球儀のような赤ん坊が
見慣れた男性に
頬をそっとつつかれている
ほんのり色のついたサイレント
映写機の音だけが
じりじりと漂う
私はポップコーンを頬張りながら
私の生が上映されることを
予感している
意に反して
赤ん坊の私の映像の次は
両親が生まれたとき
それから
祖父母が生まれたとき
曾祖父母が、と
倍々で史実を遡っていく
不思議なことに
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