姿見/春日線香
天狗の一人がやってきて
おまえの家の姿見を貸せと言ってくる
家に姿見など持ってはいないので
そんなものはないよ、と告げると
天狗は怪訝な顔をしている
家に姿見がないなんて嘘だろう
おれが天狗だから小馬鹿にしているんだろう
そんな態度をとるなら考えがあるぞ、と
おそろしい顔をしているが
ないものはないので
うちには本当にないんです
昔から欲しかったのですけれど
いろいろと事情がありまして……と言うと
向こうもだんだん心配そうな顔になり
家に姿見がないんじゃ便利が悪いだろう
買ってやるからついてこい、と
白いバンに乗せてもらい
川を渡って家具センターに来た
さあ
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