夜の歌/由比良 倖
夜が暗いなんて嘘ばかり。
私には何か、夜が照るほどに、
蠅の羽の輪郭のような
寂しい嘘のような気配がする。
……私の魂はここには無い。
秋になれば世の中の一般論は薄れ、
遠からない世界の呟きに
たぶん、誰もが耳を澄ませます。
私の心は旅に出ました、
あなたに送りたい言葉を、
他の人にばかり向かって使うので、
言葉を使うたびに寂しいです。
言葉と言っても「これ、いいね」とか
単純なことなんですけど。
そして、あなたの不在を、
冷たく、心地よく感じていることも
積極的に認めるのだけれど。
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ここではノートと葉っぱの匂いがします。
煙草と空気の匂いがします。
丸いトンネルが宙に浮かんでいて、
私はそれに触れられる気がします。
遠からない世界の呟きに、
たぶん、みなが耳を澄ませる頃、
私は、生活や雨の音を、
遠い世界の歌のように聴いています。
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