人形だって泣けるんだ/まーつん
」は唯一つだけ
形も色も重さもないけど
否定しようのない、
己の胸を内側から潰していくような
この寂しさだけだ
生まれた時から
影のようにまとわり続けてきて
一度として振りほどけたことのない
この悲しみだけ
優しい笑みを浮かべて
手を差し伸べてくる君が怖い
僕から奪わないで、
人のふりする偽物から
奪わないで、この寂しさを
もしそれを失くしたら
自分の全てが嘘になってしまう
君に抱きしめられて
その温もりに安らいでしまったら
僕という存在は、風に吹かれた霧のように
飛び散ってしまいそうだ
例えば、君の部屋の
箪笥の上に足を延ばして
腰かけている、あの古い人形
あれが僕
あの人形だって泣けるんだ
人に憧れている間だけは
本物の涙を流せる
僕が持っている
ただ一つの本物
それは
この寂しさだけ
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