年末の流し台/為平 澪
 
っても落ちない汚れ
   捨ててしまえば簡単なのに(片づけられない、お茶碗たち

たった二人だけなのに 私のものではない、私のもとにいた家族の茶碗
母の茶碗、父のお皿、誰かの湯飲み、家にいた誰かが使っていた湯飲み茶わん
カビ臭い計量スプーン、網の目のゆがんだ茶こし、流し台の奥に突っ込んである
鉄の黒い焦げ付きの取れないフライパン

片づけていく、その隙間を洗い水が流れていく
   誰の霊(ち)を洗っているのだろう
   誰の汚れなんだろう

時代遅れの二人きりの暮らしの中
私たちには支える事の出来なくなった重いだけのフライパンで
誰が何を作ってきたんだろう

私たちは確かに同時代に並べられただけの
安直な食器に すぎなかったかもしれない

その食器の隙間を蛇口から捻った水が 
汚水になって排水溝に向かって姿を消していく

吸い込まれるだけの黒い水がとても貧しい音を立てるので
私の体の真ん中で堪えていた何かがはじけだし
粉々に砕けた音を上げながら 夜の中へと流されていく







戻る   Point(2)